古くて新しい家を求め
弥富町は、木曽三川が近くに流れ、そののびやかな平野には、幾筋もの川と水田と多くの池に囲われています。この地から遠く鈴鹿山系が美しく望めます。
この地方は、昔からゆるい地盤の影響を受け、またこの旧家も捨てがたい記憶を残しながらも取り壊しが決まり、新しい家が計画されました。ご夫婦は、定年退職を間近に控え、周囲の肥沃な田畑を週末に耕し、育てることを楽しみとしていました。
このことは、この計画をするにあたって生活上の大切なテーマとして浮かび、夏の間、冬の間の基本構成の中に、ひとつは表庭(来客や休息のための)もうひとつは裏庭(野良仕事や収穫のための)として、それぞれの庭へ、大きく開放されたのです。
四季を通して、自在にすごすための創意工夫がされています。旧家の使い古された建具の数々は、長い年月にふさわしい技を示し、その愛着は、深いものでした。そこには、ものの在り様として学ぶべきものが職人の技としてありました。敬意をもって、この建具が新しい家に蘇るためにそれにふさわしい、古くて新しい家の在り様を求めたのです。
旧家の大黒柱であった見事なツガ材は、食卓テーブルとして再生。大屋根の小屋組は、そのままに現わされ家族の歴史、長い時間を包むものとして、「ひとつ屋根に住む」という共有感覚の場を求めます。越屋根の窓から刻々としてふりそそぐ光の変化は、小屋組の柱、梁のその姿を映し出すのです。
ある日、夕焼けの茜色が天井いっぱいに広がっていたそうです。
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